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生命は自然からの贈り物

 ほぼ一年じゅう青い空が広がる米国アリゾナ州。夫の実家に里帰りした年明け、キャニオン・デ・シェイというアメリカ先住民の住居跡を訪ねた。

 切り立った峡谷は、深いところでは300メートルを超える。岩壁の所々に川に削られた穴があり、その中に石積みの住居跡がある。この地域には、1300年ごろまでアナサジ族が住み、今はナバホ族が暮らすという。

 川沿いで馬を3時間、現地ガイドに案内してもらった。入り組んだ地形は外敵から身を隠すのに適していただろう。そして、遺物や壁画からは、美しい川や動植物、歌や踊りを大切にしていた生活がうかがえる。

 縦笛を吹く人を描いた壁画があった。ガイドによると、今のような医療のない時代、心と体の悩み事に耳を傾け、笛の音でいやす重要な役割を担っていたという。

 科学的な根拠がないものは、なかなか信じてもらえないけれど、私は信じる。どんなに医学が発達しても、「よくなりますように」と願う人の思いが、人を励まし、生かすと思うから。

 何億年もの時間を超えてきた大自然を前に、いつも思うのは、すべての生命は自然の贈り物であるということ。東京にいると忘れがちな、大切なことを思い出させてくれる。

 私は、お金持ちやインテリより、鳥や草木の名前を一つでも多く知っている人にひかれる。身近な命あるものをいとおしむ心のある人に、私もなりたい。

吉本多香美 : 著 : 「生命は自然から贈り物」 : 地球くらぶ : 2004年3月7日朝日新聞統合版