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悪夢はバクに食わせろと
むかしも云われているが
夢を食って生きている動物として
バクの名は世界に有名なのだ

ぼくは動物博覧会で
はじめてバクを見たのだが
ノの字みたいなちっちゃなしっぽがあって
鼻はまるで象の鼻を短くしたみたいだ

ほんのちょっぴりタテガミがあるので
馬にも少しは似ているけれど
豚と河馬とのあいのこみたいな図体だ
まるっこい眼をして口をもぐもぐするので

さては夢でも食っていたのだろうかと
餌箱をのぞけばなんとそれが
夢ではなくてほんものの
果物やにんじんなんか食っているのだ

ところがその夜ぼくは夢を見た

飢えた大きなバクがのっそりあらわれ
この世に悪夢があったとばかりに
原子爆弾をぺろっと食ってしまい
水素爆弾をぺろっと食ったかとおもうと
ぱっと地球があかるくなったのだ

山之内貘 : 著 : 「山之口貘詩文集」 : 講談社文芸文庫