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月下美人の力

 2年前に現在の一戸建てに引っ越してきた。男の子が2人いるため、年中、家の中は騒がしい。子どもの叫び声、私の怒鳴り声、お友達が遊びに来た日は最高潮にうるさいに違いない。
 ある日、突然夜8時過ぎに電話がなった。出てみると、相手はお隣の一人暮らしのおばあさんである。苦情に違いないと察し、自然に私の声のトーンは低くなり、緊張が走った。

 「さっき、急にうちの月下美人が咲いたのよ。子どもと見に来なさいよ」。肩の力が抜けた。そしてお言葉に甘えることにした。

 普段はあいさつする程度の間柄なので、急なお誘いに少々びっくりしたが、玄関を入り、二階に上がるとある部屋にその花が見事に咲いていた。

 私にも子どもにも初めての体験。「月下美人」という名前や、一夜限りの命ということから、繊細な感じをイメージしていたのだが、その葉、花は私にはとても男性的な剛健なものに見えた。サボテンのようなランのような、とても不思議な花であった。

 「あなた、とても上手に子育てしてるわよ」と、とても信じがたいお褒めの言葉も頂き、恐縮してしまった。

 ちょっとした出来事が、人の気持ちを新鮮にさせたり元気づけたりしてくれる。月下美人の力、おばあさんの力。そんな貴重な体験でした。

山上 栄子 : 著 : 「ひととき」 : 朝日新聞2003年9月18日統合版