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若い命の無念を何かの形に

 05年はインド洋大津波の被害拡大で明けた。日本の若者たちもNGO(非政府組織)等を通じて救援活動に従事している。今年も日本の若者たちは世界各地に出かけていくことだろう。

 それにつけても忘れられないのは、昨年10月にイラクで拉致され、無残な遺体で発見された香田証生さんのことである。報道では、残忍なテロの犠牲者として悼むより、彼の無謀な行動を非難する意見が多かったような印象を受けた。しかし私にはそうは思えないのである。

 私は一昨年1年間、アフガニスタン教育相のアドバイザー(JICA=国際協力機構=専門家)としてカブールに滞在した。その間、日本の多くの若者が、アフガニスタンに対して強い関心を寄せていることを知った。中には一人で危険な地域を旅行する若者も多かった。これまでアフガニスタンで日本人が巻き込まれた大きな惨事がないことが不思議なくらいである。

 しかし、日本の若者が困難な状況にある国や人々に関心を持って行動することは、恥ずべきことではない。経験は浅いが善意と行動力にあふれた若者は、チャンスを与えられれば非常に大きな仕事をするのである。

 アフガニスタンにおいて私は、学生たちと一緒に日本の自分の大学への連続14回の遠隔講義を行った。小学校や病院、農村あるいは難民支援の現場などからの講義は好評だったが、これは若い2人の学生に支えられて初めてできたことであった。

 さらに、学生たちの発案で日本とアフガニスタンの小学校をテレビ電話でつないでの交流授業を実施した。若者たちのあふれるばかりの行動力は不可能を可能にする力を持っている。

 また、03年10月にカブールで障害児のワークショップを、日本の学生の力を借りて行うことができた。約100人の参加者の中には高等教育大臣、殉教者・障害者省大臣や教育省の関係者とともに、2組の障害児とお母さんもいた。未熟児をケアしてくれる病院がないために障害を負い、そして障害を持っているがゆえに受け入れてくれる学校はなかったという訴えに、私たちは涙をこらえることができなかった。このワークショップの最後に採択した、障害児教育推進に向けてのカブール・アピールも学生が作成した。これを契機に、04年1月に採択された新憲法に障害児教育への具体的な動きが始まった。

 開発途上国や紛争国、被災国に関心を持ち、実際に出かける若者が増えた。こうした若者を非難する前に、彼らの関心や行動力に対して適切な学びや経験の場を提供することが必要である。紛争や戦争に苦しむ人々に対してどのように働きかけることができるのか、どうすれば自分の思いを行動に移すことができるのかを知らせることが必要であると思う。学習と活動へのチャンスが適切に提供されれば、彼らは非常に大きなことを成し遂げることができる。

 そのためには、青年海外協力隊の枠の増大、国際NGO活動の活性化、高校や大学での国際協力や国際ボランティアの科目やコースの増加などが考えられる。こうした施策によって、開発途上国や国際紛争に関心を持つ若者にさまざまな情報を提供し、選択肢を与えることができるであろう。若者たちの熱い心に知を備えるような道を用意することが重要である。

 仕事や金もうけが目的ではなかった香田さんの例は、他の多くの事件とは異なる。死の恐怖に長時間さらされたかけがえのない若い命を思うと言葉がない。その無念の思いを何らかの形にすることを考えるべきであろう。

内海成治 : 著 : 若い命の無念を何かの形に : 発言席 : 2005年1月9日毎日新聞統合版