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祈り

一つの大きな主張が
無限の時の突端に始まり
今もそれが続いているのに
僕等は無数の提案をもって
その主張にむかおうとする
(  ああ 傲慢すぎる ホモサピエンス 傲慢すぎる)

主張の解明のためにこそ
僕らは学んできたのではなかったのか
主張の歓喜のためにこそ
僕らは営んできたのではなかったのか

稚い僕の心に
( こわれかけた複雑な機械の鋲の一つ)
今は祈りのみが信じられる
( 宇宙の中の無限小から
   宇宙の中の無限大への)

人々の祈りの部分がもっとつよくあるように
人々が地球のさびしさをもっとひしひし感じるように
ねむりのまえに僕は祈ろう

( ところはすべて地球上の一点だし
   みんなはすべて人間のひとり)
さびしさをたえて僕は祈ろう

一つの大きな主張が
無限の突端に始まり
今もなお続いている

そして
一つの小さな祈りは
暗くて巨きな時の中に
かすかながらもしっかり燃え続けようと
今 炎をあげる

 

  宿題

目をつぶっていると
神様が見えた

うす目をあいたら
神様は見えなくなった

はっきりと目をあいて
神様は見えるか見えないか
それが宿題

 

  二十億光年の孤独

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする

火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
 (或はネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ

万有引力とは
ひき合う孤独の力である

宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う

宇宙はどんどん膨んでゆく
それ故みんなは不安である

二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

 

  沈黙

沈黙が名づけ
しかし心がすべてを迎えてなおも満たぬ時
私は知られぬことを畏れ---
ふとおびえた

失われた声の後にどんな言葉があるだろう
かなしみの先にどんな心が

生きることと死ぬことの間にどんな健康が
私は神----と呟きかけてそれをやめた

常に私が喋らねばならぬ
私について世界について
無知なるものと知りながら

もはや声なくもはや言葉なく
呟きも歌もしわぶきもなく しかし
私が---すべてを喋らねばならぬ

 

  もし言葉が

黙っていた方がいいのだ
もし言葉が
一つの小石の沈黙を
忘れている位なら

その沈黙の友情と敵意とを
慣れた舌で
ごたまぜにする位なら

黙っていた方がいいのだ
一つの言葉の中に
戦いを見ぬ位なら
祭りとそして
死を聞かぬ位なら

黙っていた方がいいのだ
もし言葉が
言葉を超えたものに
自らを捧げぬ位なら
常により深い静けさのために
歌おうとせぬ位なら

谷川 俊太郎 : 著 : 「空の青さをみつめていると」 : 角川文庫