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新渡戸稲造と私

 「エッ、新渡戸稲造が5千円札に!?」と驚いたのは20年前。私はその夏にカナダのバンクーバーに短期留学して帰国した直後だった。

 留学先のブリティッシュコロンビア大学には、「ニトベ・メモリアル・ガーデン」があった。カナダで客死した新渡戸氏をしのび、造られた美しい日本庭園だった。

 5年後、再び同じ庭園に立っていた。今度は2年間の本格的な留学。どんよりした天気が多い現地で気がめいりそうになると、庭園の無料開放日に足を運び、 望郷の念を募らせた。庭には、新渡戸氏の言葉「願はくはわれ太平洋の橋とならん」の文字を刻んだ碑があった。その前にたたずみ、「われ、世界の橋となら ん」と未熟ながら志を新たにし、学業にいそしんだ。

 今でも5千円札を手にすると、新渡戸氏の左下に印刷されている世界地図を見る。そして、碑の言葉を思い出し、いつも世界の情勢にアンテナを張っている か、日本を訪れる外国の人たちに自分の文化をきちんと伝えられるか、自問する。新渡戸氏は、日本文化を尊び、世界に対する広い見聞を持つよう導いてくれた 恩人なのだ。

 お札を通じて、多くの日本人が彼の生き方を知ったことだろう。樋口一葉さんと、いよいよバトンタッチ。長い間、お疲れ様でした。

高橋佳子 : 著 : 「新渡戸稲造と私」 : ひととき : 2004年11月17日朝日新聞統合版