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パウロは、私たちがほんものの幸福を手にすることのできる鍵を三個示す。その第一は喜びを見つけることである。これは、一つの才能だと言って いいかもしれない。私はほかの才能には自信がないものがほとんどなのだが、喜びを見つけることだけはかなりうまいと思う時がある。

この自信はいささか面映 (おもは)ゆいが、多くの場合、喜びは尊敬や賛美と抱き合わせになっている。つまり私の場合、喜びの背後には、必ず私が不当に受けたとしか思えない人の好 意があり、そこには私には全くない他人の才能のおこぼれに私があずからせてもらった、という現実がついていることが多い。

 第二の「絶えず祈りなさい」という鍵は、私にはまだ一番弱いことのように思う。話し相手に困ることはない。いや、ほんとうのことを言えば、常に誤解され て苦しむ人間にとって、祈りによって、すべてを見ていてくださる神に理解されること以外、心の休まる方法はないのである。

 パウロは三番目の鍵として感謝を挙げる。これはまさに最後の決定的な幸福の鍵である。
 実に感謝さえあれば、私たちは満たされている。感謝はことに老年のもっとも大きな事業である。もし人間が何か一つ老年に選ぶとしたら、それは「感謝をする能力」であろう。

曽野綾子 : 著 : 「心に迫るパウロの言葉」 : 新潮文庫