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 人間は一茎の葦(あし)にすぎない。自然のうちでもっとも弱いものである。だが、それは考える葦である。かれをおしつぶすには、全宇宙が武 装するにはおよばない。ひと吹きの蒸気、ひとしずくの水が、かれを殺すのに十分である。

しかし、宇宙がかれをおしつぶしても、人間はかれを殺すものよりも いっそう高貴であろう。なぜなら、かれは自分の死ぬことと、宇宙がかれを超えていることとを知っているが、宇宙はそれらのことを何も知らないからである。

 そうだとすれば、われわれのあらゆる尊厳は、思考のうちにある。われわれが立ち上がらなければならないのは、そこからであって、われわれが満たすことのできない空間や時間からではない。だから、よく考えるようにつとめよう。これこそ道徳の本源である。

 人は若すぎると、正しい判断をすることができない。年をとりすぎても、同様である。考えがたりないと、あまり考えすぎると、強情になり、有頂天になる。

 自分の仕事をそれをした直後に考えると、またよほどひいき目で見ている。あまりのちになると、そのときの気分になれない。

 絵もあまり遠くから見たり、あまり近くから見たりすれば同様である。真の場所ともいうべき、かけがえのない点は、一つしかない。その他の点は、あまりに 近いか、あまりに遠いか、あまりに高いか、あまりに低い。絵の技術では、配景法がそれを決定する。だが、真理や道徳においては、だれがそれを決定するであ ろうか?

パスカル : 著 : 由木 康 :訳 「パンセ」 : 白水社