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中村哲の祈り

 今や全世界で、皆がおそれながらも口に出しにくい事実は、我々が何かの終局に向かって確実に驀進(ばくしん)しているということである。我 々の未来を考えるのは幾分恐ろしい。

過去10年にわたって我々の眼前にくりひろげられた出来事からいえることは、中世はおろか、古代から人間の精神構造 は、複雑になっただけでそれほど進歩してはおらず、技術の水準だけ野蛮でありつづけたということである。

私はアジア的な封建性や野蛮を肯定しているのでは ない。たとえ文明の殻をかぶっていても、人類が有史以来保持してきた野蛮さそのもの、戦争そのものが断罪されねばならないと思うのである。

 我々の敵は自分の中にある。我々が当然とする近代的な生活そのものの中にある。ソ連が消滅し、米国の繁栄にかげりが見えはじめた今、我々をおびやかすものが何であるのか、何を守り、何を守らなくてよいのか、静かに見透かす努力をする時かも知れない。

中村哲 : 著 : 「アフガニスタンの診療所から」 : 筑摩書房