Home Page Image
   
 

 


夢追い続けた人

 冒険家の河野兵一さんと政治家の私、およそ接点のありそうもない二人の出会いは六年前にさかのぼる。

当時の河野さんは無名の冒険家、私は選 挙に落選中、お互い三十代半ばで共に試練の日々を送っていた。道は違えども、見果てぬ夢を追いかけながら常に前向きに生きる姿勢を共有する人間として意気 投合、以来今日までかけがえのない友情を温めてきた。

 彼ほど純情な人間を私は知らない。名誉欲も物欲も何もない。ただひたすらに自然に挑戦し、歩き続ける。

日本人初、世界で二人目、北極点単独徒歩到達とい うとてつもないことをやり遂げた後も、その姿勢は何ら変わらない。冒険を通じて体感した自然の脅威や環境問題の重要性は語っても、決して自らの実績を誇示 することはなかった。彼に直接触れあえば、だれしもがたちどころにその人柄を理解する。

 彼ほど慎重な冒険家を私は知らない。常に蛮勇をいさめ、無謀によって傷つくことを不名誉としていた。危険を察知した時に立ち止まる勇気を持っていた。

数 々の冒険で彼はそれを証明している。だからこそ、今回の事故は突発的に襲ってきた、極点だけが持ちうる自然の猛威によるものであったことは間違いあるま い。

 自然の尊厳と脅威をだれよりも知り尽くし、その感動を人々に伝えようとしていた河野さん、命がけで夢を追い続けたその生き様を、私は生涯忘れない。

 「遠くに目標を置いて、近くを見ながら歩く」。彼の残したこの言葉が、これからも私を励まし続けてくれるように思う。心よりご冥福をお祈りする。

中村 時広=松山市長 : 2001年5月31日 : 日本経済新聞朝刊 : 交遊抄)