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雪の朝

寒いのは嫌だと、いつも言っていた妻が

なぜ、こんな日を選んだのであろうか

それは、東京には珍しい雪の朝だった

----あなた、

----だって、子の世って醜いでしょう

----だから・・・・・・

 

東京に残された自然は雪だけだ、と

いつか、ぼくはおまえに話したことがあるけれど

 

----ほら、みて

----街も、ビルも、公園もすっかり白に覆われて

----だから・・・・・・・

 

命とひきかえに白さに還元されていった妻よ

苦しみから解き放たれて白さに昇天していった妻よ

いま、おまえの声が

天の声となって静かに聞こえてくる

 

一九百九十四年二月十二日

東京地方は二十五年ぶりの大雪で

妻が息を引き取ったのは

その日の朝、八時三十一分

折から激しく雪が降り始めた頃である

 

中原道夫 : 「悲しみを浪費するな」 

 :  日本ペンクラブ編 : 「私を変えたことば」 : 光文社