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或る日二十代の未知の女性が空路利用で来訪。執筆中のコタツへ通す。

苦しげに彼女が問うた。なぜ本など書くのです、ゴミでしょう、と。公害で しょう、と。とある心療内科病棟から退院直後とのこと。

私は忘れかけていた遠い日の自分を見てしまう。それは性暴力で仲間を失った日以来の。

彼女に数日泊 まってもらう。彼女の手料理はやさしい。ほのかな味覚。溜まった本の整理を頼みながら雑談する。

あのね、本もいろいろあるけど、でもね、本とは明日生まれ るいのちへのラブレターなの。いつの世も。

 その後も、入退院の彼女から、近年は短い活字文がとどく。生きる姿への静かな微笑が。こうした心の旅人が幼少年にもひろがった。

四、五歳の問いが心にこだまする。--------
  おばあちゃん地球は病気だよ。今まで何していたの------
 お願い、一緒に耕そう、心の畠を。くりかえし壊され壊す生命界の、闇を抱きながら。

森崎 和江 : 著 : 「いつもそばに本が ? 」より : 朝日新聞 : 2001年8月26日 朝刊