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 9歳下の妹が生まれ、父に甘える役は妹の”専売特許”になった。そのせいか、私と父は子どものころから、あまり会話がない。

 ただ一つ、胸に深く残っている父の言葉がある。18年前のこと。中学3年だった私は反抗期。「不良心」が芽生えて、学校の先生を困らせてばかりいた。口頭注意や廊下での正座にとどまらず、ついに父が校長室に呼ばれることになってしまった。

 3年生は8クラスあったが、学年全部の8人の先生を前に、私と父はいすに座った。「遅刻はする。そうじはさぼる。・・・・・・」。担任は、私がどれだけ ワルいかを父に報告した。重苦しい雰囲気に、私の心臓はドキドキが止まらない。先生の話が終わり、みんな父が何か言うのを待っている。父はゆっくりと呼吸 を整えると腕を組んだ。そして言った。「子どもの育て方には自信を持っております」

 言葉の出ない先生たちを前に父は一礼し、席を立った。私は慌てて父の後をついていき、校長室を後にした。

 そのことがあってから、なぜか、私の「不良」は終わった。今思うと、親が自分のことを信じていると分かり、私の心が安定したのだろう。
 今でも父に「ありがとう」と口に出して言えない。その代わりに、毎年、父の日に、そっとプレゼントを贈るのだ。

松田由佳 : 著 : 「女の気持ち」 : 毎日新聞2002年6月9日朝刊