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おお地球よ

なんと美しく尊いものであることか、地球よ。

光に全き忠誠をささげ、

けだかくも太陽に服従しつくすあなたよ。

なんと愛らしいものであることか、地球よ。

もやのヴェールをまとう姿も、

闇につつまれたかんばせも。

曙の歌のなんというやさしさ、

夕(ゆうべ)の讃歌のなんという烈(はげ)しさ。

地球よ、十全にして堂々たるものよ。

私は野と山と谷と洞窟を歩いて見出した、

野にはあなたの夢、山には誇りを、

谷にはあなたの静謐(せいひつ)、岩には決断を、

洞窟にはあなたの秘密がひそんでいるのを。

私は海と川とせせらぎを渡って耳をすまし、

潮のさしひきに永遠のことばを聞き、

山々のはざまに世々の歌がこだまし合うのを聞き、

峠と山道には生命へのよび声を聞いた。

なんと寛容なものであることか、地球よ。

私たちはあなたから元素をひきぬき、

大砲や爆弾をつくるのに、あなたは

私たちの元素から百合やばらの花を育てる。

なんと忍耐づよく慈悲ぶかいことか、地球よ。

あなたは神が宇宙の東から西へと旅したもうたときに、

み足のもとに舞いあがった塵の一粒でもあろうか。

または「永遠」のかまどから放射された火花なのか。

それとも大空の野に蒔かれた種で伸びて神の樹となり、

天の上にまで届く高い枝をのばしているのか。

あるいはまた時の神が空間の神のたなごころの上に

のせたもうた一個の宝石でもあろうか。

地球よ、あなたはだれ、そしてなに。

あなたは「私」なのだ、地球よ!

あなたは私の見るものと私の識(し)るもの。

あなたは私の知と私の夢。

あなたは私の飢えと私の渇き。

あなたは私の悲しみと私のよろこび。

あなたは私の放心と私の覚醒。

あなたは私の眼(まなこ)に生きる美であり、

心にあふれるあこがれであり、

私の魂の内なる永遠の生命である。

あなたは「私」なのだ、地球よ。

私が存在しなかったならば、

あなたは存在しなかったろう。

神谷美恵子 訳

みすず書房編集部 : 編 : 「神谷美恵子の世界」 : みすず書房