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耕すこと

 私は山里の小さな部落に住んでいるのだが、いつも山の斜面の畑で会う老人がある。その

人の畑はいつもきれいに耕されて美しい文様を作っている。

春には春の、夏には夏の、秋に

は秋の、そして何も植わっていない冬にも、この老人の畑は美しい文様を作っている。風紋

のように自然で、けっして人が作ったものとは思えない。

この老人の鍬は、力まず休まずいつ

もごく自然に動いている。この老人のからだの動き自体が畑にとけこんでいて、そこに人がい

ると気がつかないときさえある。 この老人の畑にはいつも豊かで美しい稔りがある。 

私は

山の畑でこの老人に会うたびに思うのである。百姓にかぎらず、人間のするほんとうの仕事と

いうものは、何かを作りあげることでも、掘り出すものものでもなく、自然の稔りを待って耕すこ

とではないかと。

     今西 祐行 著 : 「冬の祭り」 : 偕成社